第28章 団子より花
「アヤ、何処へ行っておった」
書簡から目を離して信長様がこっちを見た。
ここ数日はずっと、朝餉の時しか一緒の時間を過ごしていないから会えて嬉しいけど、何か機嫌が悪そう。
「あの、仕立てた着物を届けに城下に。今朝、朝餉の時に言いましたよね?」
城下に行った事、怒ってるのかな......それとも、何かに気づいてる?
信長様はすっと立ち上がってこっちに歩いてくると、そのまま私を壁際に追い詰めた。
「そうだ、私、甘味を買って来たんです。今から一緒に食べませんか?」
手に持った甘味の包みを信長様に見せてその場を和ませようとしたけど、
「何だ、これは」
静かに、でも苛立ちを含んだ声で、信長様は私の着物の首元の襟を引っ張った。
「えっ?」
「血が、付いておる」
(あっ、さっき付いたんだ)
「これは、途中で怪我した人に会って、その、手当てをした時に付いたんだと......」
言い終わる前に、信長様は私の体を反転させ、後ろから抱きしめた。
「っ、信長様?」
「この様に、貴様を抱きしめん限り、そのような場所に血は付かん、それに貴様の首のこの痕、俺が付けたものではない」
「........っ、それは」
どうしよう、何て言えばいいの?
何を言っても怒られそうで、言葉を発することを躊躇っていると、
「来いっ!」
強引に手を引っ張られて、絨毯の上に投げ出された。
「のっ、信長様⁈」
怒りを含んだ顔の信長様が私の体を絨毯に押さえつけた。
「城下で何があったのか言え!貴様から香る男の匂いについてもだ」
「っ、仕立物を届ける途中で、毛利元就に会いました」
「何?」
「会ったというか、手を引っ張られて、路地裏の知らない一軒家に連れ込まれたんです」
「手篭めにされた、という事か?」
信長様の顔が苦痛な怒りで染まっていく。
「ちっ、違います!そんな事はされてません!ただ、逃げようとしたら後ろから抱きしめられて、その、首に...........」
「血は、この血は何だ」
「これは、毛利元就が怪我をしていたので、その時の血が付いたんだと思います」