第28章 団子より花
「本当に針子やってんだな。今日も反物屋に行く途中だったのか」
「あっ、はい。私の唯一の取り柄と言うか、他には何も出来ないし、とても好きな仕事なんです」
「そうか」
何か、さっきまで酷いことされそうになってたとは思えないほど穏やかな空気が流れ始めた。
「終わりました。これで血は止まると思いますけど、ちゃんと手当てしてもらって下さい、一体なんでこんな怪我を」
腕の立つ人だから、きっと寸出でかわしたに違いないけど........
「お姫さんは、やっぱり変わってるな、俺に手篭めにされかけたってのに、手当てするなんて、人が良いにもほどがある。信長にちょっと同情するぜ。折角あんたの為に城下の警備を強くしてあるんだろうに。おかげでこっちは痛い目にあったけどな」
そっか、信長様の強化策による兵の増加によって、途中で身元がバレて斬り付けられたのかもしれない。違うかもしれないけど。
「さっきの事は許しません。でも、それと怪我は別です。あなたは、信長様の敵だけど、目の前で血を流していて放っておく事はできません」
「ふんっ、筋金入りのお人好しだな。そろそろ時間だ。もう行っていいぜ」
入り口を開けて私を路地に押し出した。
「元就さ....ん?」
「元就でいい。怖がらせて悪かったな、あんたに預かって来たものがあったから、今回はそれを届けに来ただけだ。お姫さんとの逢瀬は嫌いじゃない。次も楽しみにしてるぜ」
ニヤリと笑い、手をヒラヒラさせながら元就さんはバシンと戸を閉めた。
「逢瀬じゃないし......それに届け物って.....何ももらってないけど......」
言われた意味が分からないまま、手を入れられた袷を整えようと手を掛けると、
「?」
カサッと手に紙が触れた。
「何?」
袷に入れられたその紙を手に取ると、手紙の様だった。
「手紙?私に?」
綺麗に綴られたその手紙を読んでいくと、その差出人は、先日城の牢屋から殿と一緒に脱走をした椿の姉上からだった。