第28章 団子より花
「.......っ、離して下さい」
「まぁ、そんなつれない事言うなって。アヤ、お前、赤子みたいに甘ったるい匂いがするのな」
私の髪に顔を埋めて匂いを吸い込むようにされた。
「っ、やめて下さい」
頭も体も捩って抵抗するけど、ぜんぜんビクともしない。
首すじに、ざらりと何かが這うような感触がした。
「やっ、」
「肌も柔らかくて甘い、上々だ」
元就さんの舌が私の首すじを這って、吸い付かれる様な感覚が走った。
「やだっ、何したの?」
振り解きたくても、キツく腕ごと抱きしめられていてどうする事も出来ない。
「お姫さんを俺の物にする方が、信長を簡単に苦しめられそうだ」
元就さんの手が着物の上を滑る様に動いて私の袷の中に入って来た。
「......っ、やめてっ、離してっ!」
必死で叫んでいると、パッと手が離された。
(えっ?離してくれた?)
「ふんっ、今日はここまでにしておいてやる。それに、時間がない。」
いつも余裕気な顔が少し違っていて、よく見ると、ポタポタと何かが彼の手から滴り落ちている。
「血がっ!怪我をして」
血の落ちている左手を触ろうとすると、
「触るな!」
強く拒否され、手を払われたけど、
「手当てしないと、お願い、見せて下さい」
強引にその手を引っ張って袖を捲り上げると、
「っ、」
刃物で切られた様な一本に走る傷があり、そこから血が出ていた。
「これ、どうしたんですか?取り敢えず止血を、ちょっと痛いかも」
慌てて手拭いを出して、家康に教えてもらった止血方法で巻きつける。
元就はじっとして、私の手の動きを見ていた。
「何か、派手な手拭いだな」
「あっ、これは、着物を仕立てた時の端切れを組み合わせて作ったんです。パッチワーク調でかわいいでしょ?って、パッチワークって言っても分かりませんよね。私、たまに変な事言うんですけど、気にしないで下さい。でも、あなたは派手な格好好きそうだから、違和感ないでしょ?」
何か話さないと、さっきの恐怖が思い出されて、
私は必死に手拭いを巻きつけながら話を続けた。