第27章 優しい嘘
次の日、一部の者を除いて広間は大騒ぎとなっていた。
罪人の脱獄に加え、その側室であった姫の失踪。
誰かが手を貸しただの、姫が脱獄を手伝っただの、牢屋の番人は何をしていただの、広間ではあらぬ噂や野次が飛び交ってざわついていた。
今更ながらに、自分がしてしまった事の重大さに震えが来て、信長様の横で何も言わずに拳をぎゅっと握りしめると、ふわりとその拳を信長様の手が包み込んでくれた。
(信長様)
「騒ぐな、静まれ!」
低くてよく通る威厳に満ちた声が広間に響き渡り、皆が一斉に静まり返った。
「光秀っ、昨夜、何があったのか皆に説明せよ」
信長様が光秀さんに説明を促した。
「はっ、昨夜、見張り番の交代の合間を縫って、捕らえられていた謀反人が脱獄し、側室であった姫を人質に取り、現在も逃げている模様です」
姉上様を人質にと言うことにしてくれたんだ。
これで、椿やその家族が姉上様の事で咎められる事はなくなった。
さすが光秀さん。
「ふんっ、女連れでどこまで逃げ切れるか見ものだな。
所詮は戦に敗れた敗将だ。そんな奴に手間をかけても何の益にもならん。捜索は打ち切って、各々の仕事に戻る様に手配しろ」
最後は、信長様の言葉によって、ざわついていた家臣たちも納得し、事件は終息した。
姉上様達は一体どこへ逃げたのか。
でも、愛する人と一緒ならきっとどんな試練も乗り越えて行けるはず。
どうか、二人だけの幸せの形が見つかります様に。
目を閉じて、二人の無事と幸せを心から願った。