第27章 優しい嘘
「ばか娘、お前ももう戻れ。御館様が心配される」
姉上の姿が見えなくなると、光秀さんが私に向き直って言った。
「どう言う事ですか?なぜ光秀さんが」
まだ、狐につままれた様な気分で頭が追いつかない。
「なに、御館様から昨夜急な招集があってな、刑は明朝執行するが、今夜は少し警備を手薄にしろと」
ニヤリと口に弧を描きながら光秀さんは話してくれた。
「えっ?言ってる意味が分かりません..............だってそれじゃ、わざと逃がそうと........して.......くれ...た?」
(うそ、まさか、これ全部信長様が?)
自分の口に手を当て、驚きを隠せないでいると、
「.......たまには、そのささやかな中身の頭を動かすんだな」
ぽんぽんっと、泣き出した私の頭を光秀さんが撫でてくれた。
「アヤ、お前は、お前が思っているよりも深く御館様に愛されている事を自覚するべきだ。いつも一緒にいて、御館様の何を見ている」
言葉は厳しいけど、涙の止まらない私の頭をずっと光秀さんは優しく撫でてくれている。
「ごめん.....なさい。光秀さんにまで迷惑をかけて」
「俺の事はいい、裏仕事は俺の得意分野だ」
「そんな、私のせいで」
「いいからお前は早く戻れ、そして忘れろ、いいな」
光秀さんは、早く行けと言わんばかりに私の背中を優しく押し出してくれた。
「ごめんなさい、光秀さん。そしてありがとうございます」
「礼なら御館様に言うんだな」
ひらりと手を振って、光秀さんも闇夜に消えて行った。