第27章 優しい嘘
夜になり、昨夜ぶりに信長様が天主へ戻ってきたけど、何を話すでもなく、閨へと誘われた。
信長様が寝たのを見計らって抜け出そうと思っていたから、今夜は抱かれても正気を失わない様に、気を強く持たなくてはと自分に言い聞かせてその腕に身を委ねた。
けれど予想外に、信長様は疲れていたのか、私を抱きしめたまま眠ってしまった。
姉上との約束の時間が来て、私は信長様を起こさない様に腕をすり抜けて、天主を抜け出した。
牢屋へと続く途中の石垣で姉上と落ち合い、牢屋へと急いだ。
タイミングよく牢屋の見張りの人がいなかったので、そのまま姉上と牢屋へと入ろうとした時、
「んっ!」
後ろから何者かに口を塞がれて動きを封じられた。
「アヤ様」
姉上が慌てて振り返り、私も目だけを後ろに泳がせてその人物を見た。
「ふがががかんっ」(光秀さんっ!)
「静かにしろ!」
手を解いて、しーっと指で合図をする。
「悪いが、ばか娘はここまでだ。こんな小娘でも我が主君の想い人だ。脱獄の片棒を担がせるわけにはいかない。あとはお前一人で行ってもらおう」
「光秀さん、どうして」
私の問いかけには答えず、光秀さんは言葉を続けた。
「早く行け、今だけ警備を手薄にしてある。後はお前たちの運次第だ」
「.......................」
暫く沈黙があり、姉上は察した様にこくんと頷いた。
「アヤ様、ご恩は一生忘れません。どうかお元気で」
そう言うと、私の手を軽く握って頭を下げ、牢屋へ向かって走って行った。
「姉上様もお元気で。どうか無事に逃げ切ります様に」
姉上様の姿が見えなくなるまで、何度も何度もそう祈った。