第27章 優しい嘘
とりあえず、私は針子部屋へと向かった。
天主から、本丸御殿へと渡る廊下の途中で、椿と姉上がこちらを見て立っていた。
「椿.....と姉上様?どうしたのですか?こんな所で」
声が震えてるのが自分でも分かる。
「先程、秀吉様より、暫くの間、登城禁止命令が下されましたので、アヤ様に一目でもお会いし去ろうと思い、こちらにて待たせて頂きました。本当は、アヤ様にお会いする事自体もだめだと言われたのですが、私のせいでアヤ様にご迷惑をおかけしてしまいました事をお詫びしたくて、誠に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる姉上。
「姉上様?」
昨日とは違い、妙に落ち着いた姉上に嫌な予感しかしない。
「殿の最後を見届けた後、出家する覚悟ができました。私も武家の女子として、定めに従う覚悟でございます」
「何を言って.....そんなのだめです」
「謀反を起こして命長らえた者など今までにおりません。冷静に考えれば分かったものを、アヤ様にまでご迷惑をおかけして」
「待って下さい。諦めてはダメ。本当に助けたいと思うなら二人で逃げて下さい」
「アヤ様?」
「今夜しかありません。私が見張りの人の注意を引きつけますから、お願い逃げて、生き延びて下さい」
自分でもとんでもないことを言っているのは分かってる。でも、昨夜から何度考えてもこれしか浮かばなかった。
「でも、そんな事したらアヤだって、ただでは済まないでしょ?」
隣で話を聞いていた椿が不安そうに口を開いた。
「私の事は大丈夫。それに、後悔したくないの。だから、何とか逃げてほしい。そんな事しかできない非力な私を許して下さい」
「アヤ様」
椿と、椿の姉上は、涙を流しながら何度も頭を下げて、その場を離れた。