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恋に落ちて 〜織田信長〜

第27章 優しい嘘



朝餉の時間になり、女中さんが私の朝餉を運んできてくれた。
昨夜言った通り、信長様は私を部屋から出さないつもりだ。
でも、椿の姉上はきっと今日も来ているに違いない。だから、私は行かなければ。


天主の襖を開けると、

「ひっ、秀吉さん!」

秀吉さんが壁にもたれてこっちを見ていた。

「どこに行くんだアヤ」
ジロリと睨む様な目。

「あっ、気分が悪いからその、厠に」
苦し紛れの嘘なんてきっと通じない事はわかってる。

「明朝、刑が執行される事が決まった」

「えっ?」
ゾワっと、鳥肌が立った。

「うそっ、だって昨日はまだ何も決まってないって」

「昨夜、急に信長様の招集があって、俺ら側近の者たちで決めた」

昨夜って、天主を出て行った後って事?

「そんな......」
助けてほしいとお願いしたのに。
力が抜けて、膝がガクガクしてきた。でも、

「お前、助けに行こうと思ってるだろ?」
慌てて前を通り過ぎようとした私の腕を掴んで、秀吉さんが険しい顔で見てきた。

「っ、そんなの当たり前です。私は誰にも死んでほしくないし、そんな判断を信長様に下してほしくない」

「お前、信長様と生きていくんだろ?それなら、信長様を常に理解し、支えて行くべきじゃないのか?足を引っ張ってどうするんだ」

「わっ、私は、私の正しいと思う方法で、信長様を支えたいし理解したいんです。ずっと一緒に生きて行こうと決めたからこそ、今ある当たり前には流されたくないんです」

「だからって、投獄されている者を逃がしたりしたら、いくらお前だって、処罰される事くらいは分かるだろ!それによって、信長様を陥れようとする輩たちに隙を与えることになる事も」

分かってる。秀吉さんの言ってる事が正しい事も、私の考えが甘い事も。でも、それでは何も変わらない。

「離して下さい」
秀吉さんの手を振りほどく。

「アヤ!」
秀吉さんはまだ何か言いたげだったけど、これ以上聞いたら気持ちが揺らいでしまいそうで、私は早足でその場を歩き去った。

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