第27章 優しい嘘
「えっ?」
心臓が鷲掴みにされた様な衝撃が襲った。
姉上は、その場に突っ伏して泣き出した。
「うそ、そんな事信長様がするわけ.....」
途端にまわりの世界が白くぼやけだした。
「アヤ、アヤ、しっかりして」
葵に名前を呼ばれてハッと我に帰る。
「あのっ、ごめんなさい、私..........」
何て答えればいいのか分からない。
人の生死を決めるなんてできない。
信長様がそんな事するわけない。
もし、助けられなかったらどうするの?
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう!
「ぐっ、」
気分が悪くなって吐き気がしてきた。
「アヤ、大丈夫?」
葵が背中をさすってくれた。
「悪いけど、帰ってもらえる?」
葵が姉上と椿に静かに言い放つ。
「お願いしますっ、アヤ様」
椿に腕を引っ張られながらも、命乞いをする姉上の姿が目に焼き付いた。
「アヤ、信長様とこれから生きて行くなら、酷な話だけど慣れなくてはダメだよ」
葵が私の背中を摩りながら、今の時代を生きる人らしい言葉を言う。
でも、
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
答えはちゃんと自分の中にある。
「助けてあげたい」
でも、どうやって?
戦に負けるとは、死を意味する事。
椿の姉上のあの姿は、明日の私かもしれない。
どんな形でも、姉上は嫁いだ先の殿様に恋に落ちた。
私もそう、始まりはどんな形でも、信長様に恋をしたの。
どうしよう。覚悟を決めたはずなのに、私はこんなにも弱い。人の生き死にに慣れるとはどう言う事なの?
吐き気は止まらない。
葵に支えてもらいながら、何とか天主まで戻った。
結局その日は、何も喉を通らないまま、天主で信長様が戻られるのを待った。