第27章 優しい嘘
「えっ、あの」
突然の事で私が慌てていると、
「どういう事ですか?頭を上げて詳しく話してください」
葵がフォローに入ってくれ、椿の姉上は涙ながらに話し始めた。
姉上の話によると、
先の戦で大敗を期した姉上の旦那様は織田軍によって捕らえられ、今この安土城の牢屋に入れられているという。
姉上が嫁いだのは昨年の事。
織田家との同盟を結ぶにあたり、その関係をより深いものとするために、織田家の重鎮である武将の娘を側室として嫁がせる事も条件の一つとされ、身分や年頃から、椿の姉上が適任と判断され嫁いだという。
武家の女子として生まれたからには、いずれは親の決めた相手の元に嫁ぐ事は覚悟していたが、嫁いでみると、姉上は一目で恋に落ちたという。
御正室の方はとても厳しい方だったそうだが、殿はとても優しく、大切にしてくれたという。
今回、信長様を裏切ったのも、しがらみを捨てきれない家臣たちに言いくるめられた結果だと言う。
「本当は、裏切る気なんてなかったんです。殿は優しすぎて、こんな結果に」
正室の方は早々に逃げてしまって今は実家に戻られているそう。でも、姉上は助け出された後も、殿の事が頭から離れず、一縷の望みをかけ、私の元に来たと言った。
暫く、沈黙があったが、
「あなたも、武家の女子として生まれたのなら、謀反を起こし、敗れた将がどうなるのか知らないわけではないでしょう!」
いつになく険しい顔で、葵が頭を下げる姉上に言い放った。
「...っ、分かっております。ですが、まだ沙汰は決まっていないと聞きました。誠に失礼ながら、信長様の御寵姫であるアヤ様なら、我が殿の命を助けていただけるのではないかと思い、お願いに参った次第に御座います」
椿の姉上は、きっとあの日から何も食べていないのだろう。痩せて、憔悴しきったその姿から、愛する殿を助けたいと言う思いが滲み出ていた。
「あの、姉上様の殿様はどうなってしまうのですか」
この時代の事が分からないから、率直に聞いてみた。
「.............多分、河原にて斬首刑だと思う」
葵が苦しそうに言った。