第26章 寝言
「アヤ、朝だ、起きろ」
いつものようにアヤを起こす。
「んっ.....」
俺の腕の中で、気持ちよさそうに身動ぎ、目を覚ますアヤ。
「信長様、おはようございます」
起きがけから、愛らしい笑顔で俺に挨拶をする。
「私、寝ちゃったんですね。運んで頂いてありがとうございます」
俺の着物の襟を掴んで顔をすり寄せるアヤ。アヤの事を疑うわけではないが、昨夜の寝言が気になる。
「貴様、昨夜は寝言を言っておったぞ。どんな夢を見たのだ」
軽く探りを入れてみる。
「えっ?私寝言言ってました?」
寝言を言った事が恥ずかしいのか、夢の内容が恥ずかしいのか分からぬが、アヤは顔を少し赤らめた。
「りょう...と言っておった。何者だ」
「わっ、名前まで言ってました?りょうは私の大切な友達です」
「友達だと?」
情というものほど脆いものはない。男女であればなおのこと、友情など成立はせぬ。
「はい、りょうは、背が高くてカッコよくて、バレー部のキャプテンで、って、あっ、バレー部って言うのは、今で言う鞠を使った競技みたいなもので、キャプテンって言うのは、一番強い人がなれる大将の様なもので、とにかくみんなの憧れで、私も大好きだったんです」
男の名前を言った事を、悔やんで謝るのかと思えば、目を輝やかせて懐かしそうに語るアヤ。
これ以上聞くと、更に嬉しそうに話すに違いないと思い、
「そうか」
と言って、話を終わらせた。
昔好きだった男の夢を見た位でアヤを責めるなど、男として度量が狭すぎる。
だが、苛立ちは消えない。
朝餉に行くため急いで支度をするアヤを待たずに天主を出た。