第26章 寝言
今夜は、軍議が長引いた。
アヤは、どんな時も起きて待っているみたいだが、ほとんどの場合、寝落ちしている。
天主の襖を開けると、俺の机にアヤの姿が。
「ふっ、やはりな」
机の上で気持ちよさそうに寝ているアヤ
最近始めた〔かるちゃーすくーる〕で習ったのか、机の上には筆で文字を練習した紙が沢山ある。練習書きした紙を一枚手に取って見ると、織田信長、織田信長、織田信長と、沢山書いてある。まずは自分の名前を練習せよと言わねばな。
苦笑しながら見ていくと、連ねて書かれた自分の名前の最後に「好き」と一文字だけ違う文字が書かれてあった。
「......っ」
恋文ではなく、ただの練習書きだと分かってはいるが、その紙を丁寧に折りたたんで懐に入れた。
寝ているアヤを抱き抱えて閨へと運ぶ。褥に下ろして寝かせると、自分もその横に横たわった。
アヤを腕の中に閉じ込め、眠ろうとした時、
「やだ、くすぐったいよ」
アヤが話し出した。
「アヤ?」
声をかけてみるが、眠っている。
「なんだ、寝言か」
大方、シンの夢でも見ているのかと思いながら、 再び目を閉じる。
「もう、やめてよ、りょう」
りょう?聞き捨てならない男の名前。
「おいっ、貴様」
アヤの体を揺するが、アヤは一度寝ると中々起きない。よほどその男とのいい夢なのか、顔を綻ばせている。
ただでさえ、今夜は抱きそびれたと言うのに、俺以外の男の名前を寝言で聞かされ、俺以外の男の夢を見て嬉しそうな寝顔を浮かべるアヤに苛立ちながら目を瞑り、朝を迎えた。