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恋に落ちて 〜織田信長〜

第25章 秀吉のぼやき③



残るは、協力者だ。
アヤの人の良さにつけ込んで、良からぬ事をする姫が現れない様に、見張ってくれる姫が一人必要だ。

適任がいる.....が、会うのは少々気まずい相手で、けれど背に腹はかえられず、筆を取り文を書いて、城下町にある茶屋にて待ち合わせる事にした。


約束をした日、時間より少し早めに茶屋へ行くと、相手はもう店の前で待っていた。

「葵っ!」
名前を呼ぶと、こちらを振り向いて会釈をした。

「ご無沙汰しております秀吉様」

葵に会うのは実に3年ぶりだ。

「急に呼び出して悪かったな、中に入ろう」
あまり人目につくのは良くないので、葵の背中を押して店へと入った。


「......と言うわけで、お前に協力して欲しいんだ」
一通りの説明をして、俺は葵に協力者になってくれる様に頼み込んだ。

少しの間沈黙が流れ、葵の口から溜息が漏れた。

「はぁー、秀吉様はもう、前に進んでいるのですね」
切なそうに作り笑顔で彼女は微笑んだ。

実は、俺たちは一度だけ、男女の仲になった事がある。当時の俺は、ある姫君に片想いをしていて、その姫君を将来貰い受けたいと思い、日々武功を上げる事に必死になっていた。葵はそんな俺の気持ちを知りながらも俺の事が好きだと当時は言ってくれていた。

ある日、その姫君の御輿入れが決まり、自暴自棄になった俺を葵は慰めてくれた。
悲しみをぶつける様に葵を抱いた。葵は初めてだったのに、俺は何も優しくする事が出来ず、ただ己の熱を葵にぶつけた。

そう、葵と会うのはあの夜以来で、葵の言葉から察するに、葵はまだ俺の事を......

「悪い、お前の想いには答えられない。俺は、この生涯を信長様とアヤに捧げたい。でも、お前の協力がなければ成立しないんだ」

こんな最低な男がいるだろうか。あの日に限らず、今もまた俺は彼女の心を利用しようとしている。

「分かりました」
静かに俺の目を見る葵。

「私は、そんな秀吉様に、私の生涯を捧げます。協力、させてください」
凛とした決意を胸に、葵は頭を下げた。

こうして、最高の協力者を得て、俺のアヤを正室にする作戦は始まった。
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