第24章 痕付けの代償
「アヤ、準備手伝うよ」
襖の方から声がして振り返る
「葵、ありがとう」
葵は、容姿端麗、文武両道の才色兼備で、この姫会の中では姉御的な存在。初めて会った時から気が合って、安土に来て初めて出来た女友達。
「この間の甲冑の練習の成果はどうだった?」
座布団を並べながら葵に聞かれる。
「うーん。あまり上手には出来なかったけど、それで良いって信長様が言ってくれたから」
「そっか、うちでも母上が父上の甲冑を着つけてたよ。お互い、しばらくは心配な日が続くね」
「うん。」
不安な時、こうやって話し合える友達ができて本当に良かった。
暫くすると、みんなが集まってきて、今日のレッスンが始まった。
武家の女子として生まれたみんなは、物心ついた時から、良妻賢母となるべく厳しく躾けられており、私以外はみんなどのレッスンもそつなくこなしていて、この会は、秀吉さんが私のために設けてくれたものなのだと改めて思った。
一通りのレッスンが終了し、みんなで持ち寄ったお菓子を広げてお茶を飲む。いわゆる女子会が始まった。今回の話題はやはり、戦。
みんな、家族の誰かは今回の戦に関わっているから心配で仕方がない。
「実は、私の姉が今回の敵方の大名の元に側室として嫁いでいるので、姉の事が心配で」
一人の姫が、ポツリと呟いた。
「きっと、織田方に助けて頂いて帰って来られるよ。心配しないで」
不安そうな彼女を皆んなで勇気づける。
彼女達と話をする様になって日々感じるのは、私がどれだけ信長様に甘やかされていたのかという事。
信長様は、武家のしきたりや形式には囚われないから、私に武家の女子たるものとかを言われた事はない。
でも本当は、彼女達の様に何でもそつなくこなすことが出来れば、信長様の天下布武にももっと早く近づけるのかもしれない。
この時代に生きる女性達は強くて、決められた自分の人生にプライドを持って覚悟を決めている。
信長様の許嫁、正室、側室の事からずっと考えないようにして、逃げている私とは大違いだ。