第24章 痕付けの代償
信長様が戦へと出発した後、私は針子部屋の掃除をし始めた。
少し前から、信長様の家臣の御息女(姫君)達を集めて、いわゆる行儀見習い的な事を始めた。
お市に初めて会った時、挨拶の仕方が分からなかったから、帰った後、秀吉さんに教えてもらおうと事の次第を説明すると、秀吉さんは暫く考えた後、
「折角だから、この機会に武家の女子として必要なものを勉強したらどうだ?信長様と今後出かける時も役に立つだろ?」
と提案してくれたので、私は喜んでその提案を受けることにした。
秀吉さんは信長様にも許可を取ってくれて、数日後に信長様伝いに細かなスケジュールが渡された。
「アヤ、これを秀吉から預かってきた」
夜、天主で寛いでいると、信長様から一枚の紙を渡された。
「ありがとうございます。秀吉さんから?何だろ」
紙を受け取り見ると、参加する姫達の名前や父親の役職、特技などが書いてあり、それぞれの特技を教え合う様に、役割分担もされていた。
「わっ、すごい。何かカルチャースクールみたい」
何気に発した言葉に信長様が食いついた。
「かるちゃーすくーるとは何だ」
「えっ?うーん、簡単に言うと色々な習い事を一つの場所でできる所かなぁ。今日は、踊りの教室、明日は歌の教室といった感じで」
「なるほど、確かに、秀吉の案はそれに似ておるな。貴様は裁縫を教えるのか」
私の肩越しに秀吉さんの紙を見て信長様が頷く。
「はい。私にできるのはそれしかありませんから。反対に一つでもあって良かったです。頑張って、皆さんから色々と学んできますね」
「貴様はそのままで構わんが、息抜きになるのなら、楽しんでこい」
こうして、姫会ならぬカルチャースクールが始まった。
内容としては、手習い、裁縫、礼儀作法、男性の身の回りの世話一般、料理、茶道、芸事などなど、いわゆる花嫁修業的な事を、武家の女子に生まれるとしなくてはいけないらしい。お姫様って優雅に暮らしてるって思ってたけど、大変だ。
織田家の重臣の方々の娘さんという事もあり、みなピシッとしていて隙が無さそうで、女子力も高そうで最初緊張したけど、自己紹介の時に其々名前は呼び捨てで、敬語も無しにしようと提案すると、次第に皆んな打ち解けていった。