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恋に落ちて 〜織田信長〜

第23章 満月の夜



馬から降ろされた私の足は、落馬しない様に長時間必死で耐えていたため、ガクガクと震えて立つ事もままならない。

「こんな弱そうな女の一体何が良かったわけ?あの人の考える事はほんとよく分かんないな」
猫っ毛の男性がへたり込んだ私を見下ろして、キツイ一言を投げかける。

勝手に連れてこられて、こんな事言われて、

「っ、私だって好きでここに来たわけじゃありません!そっちが勝手に連れてきたくせに」

涙目になりながらも猫っ毛の男性を睨む。

「へぇ。言い返す事は出来るんだ」
プイッと不機嫌な顔はそのままそっぽを向いた。

「こら家康、仮にも信長様のお気に入りの娘だ。あまり酷いことを言うな」

秀吉さんが家康と呼ぶ男をなだめながら、へたり込む私の腕を掴んで起き上がらせた。

「アヤ、お前は泥だらけだから湯浴みをして着替えて来い。信長様の前に行くなら綺麗にしないとな」

「やっ、信長様の所には行きたくありません。お願いします秀吉さん。私を逃してください」

縋る様に秀吉さんにお願いをする。

「あんたバカ?そんな弱々しくてどうやって城の外で生きて行くつもり?あんたなんか、城から出た途端に、荒くれ者達に慰み者にされること分かんないの?」

家康さんが心底鬱陶しそうな顔で私に言い捨てた。

「それは...」
その通りだ。知り合いも味方も家もお金も、私には何もない。

「アヤを連れて行け」
秀吉さんが、女中さん達に手で合図をすると、たちまち私の腕を掴んで女中さん達が私を城の中へと引っ張る様に連れて行った。

生きて行く術がないのは、逃げる場所がないと言う事。死ぬ気がないなら、今はこの状況に身を置いて策を練るしかない。

言われるがままに着物を脱いで体を洗われ、着物を着せられる。そう、私は着物一つを自分で着る事ができない。デザイナーへの就職が決まり、着付の勉強は後にすれば良いと思っていた私にバチが当たったのかもしれない。

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