第23章 満月の夜
〜半年前〜
「女はどこ行った」
「まだ近くにいるはずだ、探せ」
兵士たちの甲冑と足音が聞こえる。
私は茂みに隠れて息をひそめる。
「はぁ、はぁ、どうしよう、とりあえず逃げ出したけど、一体どこに行けば」
でも、あんな所にはいられない。偶然助けてしまった信長様も、いきなり切りかかりそうな秀吉さんも、値踏みする様な光秀さんも、みんなこの時代の人達はおかしい。殺されるか、いたぶられるか、どの道無事では済まない。でもどうしよう。
答えは出ないまま、兵達がいなくなったのを見計らって更に深い闇の方へと走り出した。
暫く逃げると、
「夜分に女子が一人歩きとはどうなすった?」
今度は、袈裟姿の僧侶と出会った。
(お坊さんなら助けてくれるかも)
咄嗟にすがろうとしたけど、月明かりで照らされた彼の顔を見ると、斜めに付けられた傷が顔にあり、何となく本能寺で信長様を殺そうとした人に似ていた。
(この人もきっと危険)
本能が危険と叫び、私はその人から走り去った。
一体どうなってるの?何で現代から戦国時代へなんか。
「お願い、夢ならさめて」
三月とはいえ、まだまだ寒い。靴も履かず、着物姿は何の暖房効果もなく、体温が徐々に奪われて行く。
歯をガチガチ震わせながらしゃがみ込んでいると、
「見つけた」
眼帯の男が馬の上から私を見下ろしていた。
「ひっ、」
抵抗する間もなく馬上から腕が伸びてきて、その人の馬に乗せられた。
「俺は伊達政宗だ。よろしくなアヤ」
人懐っこい顔で挨拶をするけど、もう恐怖でしかない。
「お願いします。逃がして下さい。私は偶然居合わせただけで、あなた達とは何の関係も無いんです」
「信長様がお前を気に入ったんだ。関係ないとはもう言えないな。今からお前を安土に連れて行く。信長様は気が短いからな。飛ばすから落ちないようにしっかり掴まってろ」
そう言うと、伊達政宗と名乗った男は手綱をしならせて馬を走らせた。
「いやっ、お願いだから止まって」
落ちそうになりながらも、男の人の甲冑に必死でしがみついて、何度も逃して欲しいとお願いをした。
でも、願いは聞き入れられる事なく、私は安土に連れてこられてしまった。