第22章 帰路
「ふっ、じゃじゃ馬め。早く渡ってその脚を隠すぞ。貴様の肌を愛でていいのは俺だけだ」
「っ、はい」
直ぐに顔を赤らめてはにかむ。本当に飽きん奴だ。
橋を渡り、泥濘みを進むと荒れ果てた集落が見えてきた。
ほとんどの家は崩れ落ち、田畑は冠水して作物は壊滅状態。村人たちの姿は見えるが、力を無くし皆が死んだ様な目をして座り込んでいた。
一人の村人が、俺たちに気づいた。
慌てて皆に声をかけ、一斉に頭を下げる。
「挨拶などいらぬ。頭を上げて、現状を説明せよ」
ここ数日まともに食べていないのか、全ての村人が痩せこけている。
「へぇ、先日の雨で川が決壊しまして。助けを呼ぼうにもここら一帯の村々は壊滅状態でして、村人は皆無事ですが、牛や馬は流されちまいまして、農作物も全てやられちまって、どうしたものかと」
涙で声を詰まらせて村人は訴える。
「話は分かった。城に戻り直ぐに救援部隊を編成して向かわせる。それまで耐えられるな」
声なく村人が頷く。
アヤを連れて戻るとなると時間がかかるが、致し方ない。
「アヤ、急ぎ城へ戻る。行くぞ」
アヤの手を掴むと、アヤはその手をやんわりと引き剥がした。
「アヤ?」
「信長様だけ行って下さい。私がいては足手まといになります」
静かに、覚悟を決めた顔でアヤが俺に告げる。
「貴様はバカか。貴様をここに一人でおいては行けん」
「私は大丈夫です。ここに残って、村の人のお手伝いをしたいと思います」
「いやダメだ。それだけはできん」
自分の領地といえ、誰がここを通るかは分からん。そんな所に一人残しては行けん。
「信長様、昨夜の約束を覚えてますか?」
「貴様、まさか」
「はい。私の願いは、村の人の助けになりたい。信長様お一人なら、速やかに城へと戻れます。私は大丈夫です。お願いします。私の願いを聞いてください」
アヤがこの目をした時は、絶対に考えを変えない。
「分かった、約束は約束だ貴様の願いを聞こう」