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恋に落ちて 〜織田信長〜

第21章 於市



私の見たことのないその顔に見惚れていると、

「兄上様、あちらの方は...もしや」

皆の視線が一斉に私に注がれた。

「あれは俺の連れ合いだ。アヤ挨拶せよ」

「アヤです。よろしくお願いします」
頭を下げながら挨拶をする。
こういう時、なんて挨拶すれば良いのか聞いておけばよかった。帰ったら秀吉さんに言って、色々な作法を教えてもらおう。

「あなたがアヤ様、お噂は聞いています。私は市です。お会いしたかった」

「私は、この小谷城の城主、浅井長政だ。よろしくお見知りおかれよアヤ殿」

「長政様と、お市様、こちらこそ、よろしくお願いします」

二人に挨拶をされて、緊張していると、

「ふふっ、そんな端っこでは話もできませんでしょう。アヤ様、どうぞ兄上様の隣へ」

お市様に信長様の横へ行くように促された。

「いえっ、滅相も無い。私はここで大丈夫です。名前も、そのままアヤと呼んでください」

さっきから手をふりっぱなしで、ちぎれそうだ。

「では、私の事も市と、呼んでくださいませ」
にっこりと微笑むお市様は、本当に美しい方で、どことなく、信長様に似ている気がした。

「アヤ、早く来ぬと抱き抱えて連れて行くがいいのか」
痺れを切らす様な信長様の声。

「えっ、それは困ります........分かりました」
顔を赤らめながら、おずおずと信長様の横へと行く。

「手のかかる奴だ。早く座れ」
手をぐいっと引っ張られ、体のバランスを崩して信長様の胸の中へと転げ落ちた。

「わわっ、信長様っ!」
慌てて身体を起こそうとするけど、

「積極的だなアヤ、夜まで待てぬのか」
ぎゅっと抱きしめられ、からかう様な声で耳元で囁かれた。

「ちっ、違います。今のは転んでしまっただけで....あのっ」
もう、耳まで熱い。きっと顔は真っ赤に違いない。恥ずかしくて、でもなかなか腕の力を緩めてくれない信長様の腕の中でジタバタもがいていると、

「クスッ。噂を聞いた時はまさかと思いましたが、本当だったのですね」

お市様が私たちのやり取りを見て目を細めて微笑んだ。

「........っ」
(こんな綺麗な人の前で、こんな事)
信長様を恨めしそうに睨んでいると、女中さんが赤ちゃんを抱っこしながら広間へと入ってきた。

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