第21章 於市
次の日、朝餉を食べた後、私は信長様の馬に乗せてもらい、蘭丸くんや秀吉さんに見送られてお城を出発した。
「信長様の馬に乗せてもらうの、久しぶりですね」
信長様の前に、抱き抱えられるように乗せてもらっている私は、顔を少しだけ信長様の方に向けて話をする。
「そうだな」
「それに私、城下の外へ出るのは、来た時以来初めてなんです。だから嬉しくて」
見るもの全てが新しく新鮮でキョロキョロとしてしまう。
「ふっ、あまりよそ見ばかりしていると落ちるぞ」
「信長様が受け止めてくれるから大丈夫です」
ずっと二人でいられる事が嬉しすぎて信長様に抱きついてしまう。
「馬上で煽るな。目的地に着けなくなっても知らんぞ」
私の髪に唇をつけながら信長様がからかい交じりに言う。
「そう言えば、どこに行くんですか?まだ聞いてませんでした」
はしゃぎ過ぎて、大事な行き先がまだだった。
「隣国の大名、浅井長政の居城だ」
「浅井長政、様?」
歴史にとことん疎い私はいきなり飛び出した大名の名前にキョトンとなった。
「誰か分からぬと言った顔だな」
「うっ、勉強不足ですみません」
「俺の妹が嫁いでおる。めでたく子が産まれたらしい」
「信長様の妹君が?あっ、お祝いに行くって事ですか?」
「そうだ。嫁いで以来会っておらんからな。あのじゃじゃ馬も母となったとは」
楽しそうに妹君の話をする信長様。信長様の兄弟の事は、悲しい話しか聞いていなかったから、こんな優しい顔をして話をする信長様は初めて見た。
「仲のいい兄妹だったんですね」
「俺に、一番似ているからな」
「そうなんですね」
(似てるって、顔?それとも性格が?どうしよう。とんでもなく暴君わがまま姫だったら)
一抹の不安が頭をよぎる。
「貴様、今よからぬ事を考えたであろう」
「えっ?んっ」
首をぐいっと後ろに向けられ唇を奪われた。
「んっ、やっ、やめて下さい。本当に落ちちゃいます」
頭を振り切って離れると、
「馬上だからと言って油断するな」
コツンと、おでこでおでこを小突かれた。
「もうっ、いじわるっ」
言葉とは裏腹にドキドキしながら、私はぎゅっと信長様の腕の着物を掴んで体を寄せた。