第20章 交換条件
光秀は、アヤの後ろ姿を見送り、天主へと再び戻った。
「信長様、アヤ出て行きましたが」
「ふんっ、好きにさせておけ」
「可愛くて仕方がないと言った所ですか?」
「貴様には関係ない」
「これはこれは、余計な事を申しました。では私はこれで」
楽しそうに笑いながら光秀がその場を去ろうとすると、
「光秀、これ以上はアヤを焚きつけるな。奴には冗談は通じん」
睨むように光秀に牽制をかけた。
「仰せのままに」
そう言うと頭を下げて、光秀は部屋を出て行った。
夕方になり、夕餉の時間がきた。
顔を会わせるのは嫌だけど、お腹も空くし、腹が減っては何とかって言うから、仕方なく広間へと足を運ぶ。
信長様はもう膳の前に座って、お酒を飲んでいる。
自分から言ってしまったとは言え、お話が出来ないなんてと、もう後悔をし始めている自分がいる。
(ダメダメっ、)
頭をブンブンと振って、信長様の横に座る。
皆が揃うまでは、膳に手をつけてはいけないから、じっと座って待っていると、
「アヤ、酌をしろ」
信長様が空になった盃を私の方に向けて言ってきた。
「えっ?」
びっくりしていると、
「どうした。貴様に触れなくとも、話をしたり酌位はいいだろう」
思いがけない譲歩の言葉に嬉しくなり答える。
「はい。話すのは大丈夫です」
普通にしてくれる信長様に嬉しくなって、私はお酌をした。
夕餉の時間は、いつも通りに過ぎていき、広間を出る時間となった。
「では信長様、おやすみなさい」
ここで今夜はお別れだから、信長様に挨拶をする。
「ふんっ、つまらぬ意地を張らず戻ってきても良いぞ」
(うっ、その通りだけど、)
「私の訴えを認めてくれるまでは戻りません」
ツーンとそっぽを向いて、シンの部屋に戻った。