第20章 交換条件
「はぁ、はぁ、」
「これ位で戦力喪失とは話にならん」
ふっと、鼻で笑いながら信長様は私をその腕の中に閉じ込めた。
その言葉にムッとなった私は。抱きしめる腕を振りほどいて信長様から離れて睨んだ。
「もう、信長様とはそう言う事はしません!私の訴えを認めてもらうまでは、指一本私に触れないで下さい!」
「どう言う事だ」
怪訝そうな信長様。
「この部屋を出て別々に暮らします」
「貴様は阿呆か、ここ以外貴様の過ごす部屋はない」
「針子部屋に戻ります」
「それなら、部屋ごと没収だ」
「っ、暴君!信長様なんか嫌いです!」
「嫌いで構わんが、どうする、行く所がなくなったぞ?」
愉快そうな顔で、じわじわと追い詰めてくる信長様。
「し、シンと今日から過ごします!」
「は?」
意外な答えに信長様は少し驚いたようにも見えたけど、そんな事は気にせず、私は信長様にくるりと背を向けて、自分の荷物を持てるだけ手に持って部屋を出て行くことにした。
「訴えを聞いてくれるまで戻りませんから」
そう言って、襖を閉めて部屋を出た。
部屋を出ると、満面ニヤニヤ顔の光秀さんが壁に寄りかかって立っていた。
「みっ、光秀さんっ、今の聞いてっ」
「御館様を困らせるなと言っただろ?」
怒るってよりは、むしろ楽しんでる光秀さんの顔。
「光秀さんには関係ありませんっ!」
構わず行こうとすると、
「お前がそんなんじゃ、御館様が浮気をしても文句は無いんだな」
試すような、いじわるな質問が投げかけられた。
「........っ、また、光秀さんの間諜の方を送り込むんですか?」
あの日の不安がふと頭をよぎる。
「さぁな。それは、御館様しだいだが」
揶揄われてるって分かるけど、あの日は本当に悲しかったから、私は一度、信長様の部屋へと戻った。
「信長様っ!」
まるで、何も無かったかのように書簡を読んでいる信長様。
「何だ、もう戻ってきたのか」
「ちっ、違いますけど、一つだけ」
「何だ」
「う、浮気はだめですからね!」
もう涙目だったから、逃げるように言い捨てて部屋を出た。
廊下では、光秀さんが喉を鳴らして笑ってたけど、もうそんな余裕はない。私は知らん顔をして、シンの部屋へと急いだ。