第2章 棘
一方アヤは、信長が背後から近づいているとも知らず、着物を探していた。
上を向くと、木の上に着物が引っかかっているのが見えた。
「あっ、あった!」
幸いそんな高い所に引っかかっていなかったので、幹がしっかりしているのを確認して、アヤは木に登り始めた。
あと少しで手が届きそうな所まで来た。
片手で幹を掴み、もう一方で着物を取ろうと必死に手を伸ばす。
「あと、少し」
ケガをしている事を忘れたアヤは、着物に指を伸ばそうとつま先立ちをした瞬間、
「いっ.........」
ケガをした箇所が鋭く痛み、そのまま足を滑らせ木から落ちていった。
ドサッ!
激しくぶつかるであろう衝撃を覚悟して目を閉じて身を縮めたが、その痛みは来なかった。
不思議に思って、そっと目を開けると.........
「アヤ、このじゃじゃ馬め、一体何をしておる」
私を抱き抱え、呆れたような顔の信長様がいた。
「わっ、信長様、どうして!?外出されたはずじゃあ」
慌てふためく私をよそに、信長様はそのまま歩き出した。
「えっ、やだ、信長様、降ろしてください。自分で歩けます。」
足をジタバタさせて訴えるが、何も言わずに歩き続ける。
結局、天主まで連れて来られ、褥に投げ出された。