第18章 金平糖の罠
「あっ?綺麗な身なりしてる奴は皆お姫さんだろ?違うのか?」
男性の表情からは何も読めなかったけど、嘘をついている感じもしなかった為、その言葉を信じることにした。
「私はただの針子です。反物を拾って頂いてありがとうございました」
男性は、今度はちゃんと反物を渡してくれた。
「驚かせたなら悪かったな。俺は貿易商で今朝この港に着いたんだ」
「西の方からですか?」
「何で西と分かる」
「僅かですけど、えーと(広島ってこの時代なんて言ったっけ?)あっ、安芸だ。安芸の言葉に似てるなって」
広島に住む親戚の言葉に似てる気がして尋ねてみた。
男性は、一瞬眉をピクっと動かしたけど、直ぐに戻り、
「正解だ」
と言って、歯を見せて笑った。
「俺の故郷を言い当てた代わりにいい事教えてやるよ。お姫さんの持ってるその金平糖、俺の知り合いの商人が三日後、南蛮からもっと変わった金平糖を持ってやって来る。貴重品なんだが、取っといてやるから買いに来いよ。場所は....」
紙と筆を取り出して、お店の地図を書いてくれた。
「ほらよっ」
「わぁ。ありがとうございます。」
変わった金平糖 と言う言葉の響きにすっかり心を奪われた私は、その男性を全く疑う事なく、渡された地図を受け取った。
「三日後だぞ。早く来ないと他の客に売っちまうからな」
「えっ、必ず行きますから取っておいて下さいね」
「じゃあもう行きな。明るいとは言えあまり路地裏に来るのはやめておけよ」
そう言うと、表通りの方に私の背中を押してくれた。
私はぺこりとお辞儀をして、もと来た道を歩き出した。
「あっ、そう言えば名前聞くの忘れてた」
振り返ってみたけど、もう男性の姿はそこにはなかった。
一方路地裏では、
「信長の女って言うからどんなのかと思えば、針子やってたり、俺の素性を簡単に見破ったり、とは言え簡単に人を信じたり、変わったお姫さんだな。あんたに怨みはねぇけど、今回は役に立ってもらおうか、アヤ」
信長の宿敵、毛利元就が不気味に笑っていた。