第15章 花火
「ちょっ、離して政宗、子供じゃないんだから」
「子供の方がまだちゃんと言う事聞くぞ」
覗き込むように政宗が言う。
「何の話?」
「お前、信長様と何て約束してんだ?そっちは城とは反対方向だろう?」
「なっ、何で、政宗が知ってるの?」
信長様との約束なのに。
「そんなの、俺ら城のもんはみんな知ってる。お前、無防備なくせにちっともじっとしてないだろ?俺が信長様でも同じ事を約束させるさ」
「政宗も案外過保護なんだね。私も、いつもはちゃんと約束守って、すぐに帰ってるよ。でも今日はちょっと寄り道したいだけだもん」
「お前、自分の立場分かってんのか?隙あらばお前を人質に信長様をおびき出そうとする輩があちこちにいるんだぞ。本来姫ってのは城の中で大人しくしてるもんだ」
いつもは調子の良いことしか言わない政宗が、珍しく真剣な顔で言ってきた。
「私は、姫じゃないもん.........でも、信長様に迷惑はかけたくないから帰るね。ありがとう政宗」
自分の行動を反省し、体の向きを変えて帰ろうとすると、
「まぁ待てよ。祭り、行きたいんだろ?」
「お祭りって、何で分かったの?」
「ブッ、お前顔中に祭に行きたいって書いてあるぞ」
政宗が吹き出しながら話す。
「嘘っ!」
顔を両手で覆いながら政宗を見る。
「少しなら連れてってやるよ。ほら」
私の肩に手を掛けて、政宗が神社の方へ歩き出した。
「あのっ、待って政宗」
肩に乗せた政宗の手を取って引き止める。
「あっ?どうした」
「私、やっぱり帰る。ごめんね政宗」
「何だよ。祭り、行きたいんだろ?」
「うん行きたいけど、信長様と行きたいの」
お仕事中の信長様をおいて、政宗と行ったらきっと信長様はよく思わない。私だったら嫌だし。
「そうか。お前、信長様に本気で惚れてんだな」
政宗が笑顔で頭をクシャっと撫でてくれた。
「うん。大好きなの。政宗ありがとう」
政宗に手を振って、私はお城に帰る道を歩き出した。
「あーあ、隙あらばいつか奪ってやろうと思ってたけど、諦めるしか無さそうだな」
政宗の独り言は、町の喧騒に掻き消されていった。