第14章 二人の距離 信長編
「アヤ」
手に負えぬ感情を持て余しながら、襖を開ける。
「信長様」
完全に怯えた顔のアヤがこちらを振り返る。
こんな時でもアヤは綺麗で一瞬見惚れる。
「貴様、どういうつもりだ。なぜ宴に顔をださん」
「そういう訳では、今から行こうと、んっ」
何も言わせまいと、袷を掴み強引に口づける。
「っ、待って、信長様、話をっ」
アヤは必死で何かを訴えたがるが、そんな事はどうでもいい。貴様に触れさせろ。
アヤを褥に横たわらせ押さえつける。
「貴様は俺のものだ、まだ分からんのか」
自分でも抑えられない衝動が内から湧き上がる。
「やめっ、私は、信長様のものではありません!」
その言葉で手が止まった。
「何?」
「信長様の事は好きです。でももう、一緒にはいられません。三日後、元の世界に戻るための空間が現れるそうです。わ、私はそれで自分の世界に帰ります」
涙ながらに訴えるアヤを見て、漸く、アヤが俺から離れようとしているのだと気づいた。そしてそれを許せずアヤを力で征服しようとする俺自身に。
「そうか」
もう、愛する者は傷つけたくない。貴様がそう望むなら、争いのない未来へと帰るがいい。
怯えるアヤの着物の乱れを直して、俺は部屋を出た。
「もともと、無理やり手折った花だ。
その心までも手にしようなど、愚かな事だったな」
自分に納得させるように、独り言ちながら、宴へと戻った。