第14章 二人の距離 信長編
「おはようございます」
次の朝、アヤは広間の襖を勢いよく開けて入ってきた。
だが不安そうにしながら俺の横に置かれた膳に座った。
「おはようございます」
アヤの声で、昨日のもやもやした感覚とアヤの首の感触が戻ってくる。
「ん。」
素っ気なく返事を返す。
アヤの視線を感じながら朝餉を口に運ぶ。こんな時でも、アヤを抱き寄せ口づけたい衝動に駆られる。
こんなにもアヤを欲する自分がいるのに、昨夜の手の感触がアヤに触る事を躊躇させた。
意識を広間の者に集中させて立ち上がる。
「皆の者、此度の戦、ご苦労であった。顕如は奇しくも取り逃がしたが、あれだけの痛手を受ければもう立ち上がれんだろう。貴様たちの今回の働きを労う為、今宵は宴を催す。家臣たちにも声を掛けて盛大に労ってやれ」
「はっ、ありがたき幸せ」
広間にいる武将全員が頭を下げた。
アヤは、変わらず視線をこちらに向けている。
「アヤ貴様も宴には出席せよ」
言葉を絞り出し、俺は広間を出た。
その夜、事態は急展開を迎える。
アヤは、予想通り宴に来ない。そんな事は想定内だ。アヤは納得できない事には絶対に従わない。あの華奢な体で出来うる限りの抵抗をしてくる。それを可愛いく面白いと思えているうちは良かった。だが、この手を恐れて否定されるのはどうやら自分の中では想定外らしい。
アヤの部屋へと足を向ける。
(言う事が聞けぬなら、いっそこの手で・・・)
またもやもやと、霧のかかった感情が芽生えてきた。