第2章 棘
「食事を続けよ」
低く威厳に満ちた声が広間に響き渡る。
「アヤ、貴様も早う食べよ」
朝餉の事などすっかり忘れてた。
「はい」
箸を掴もうとするけど、手が震えて掴めない。
涙が出そうだけど、悔しい。泣きたくない。
「..............っ」
震える手を握り締めながら、私は俯いて涙を見られないように歯をくいしばった。
怪我をすることすら許されないなんて。
肩を震わせてひたすら涙を堪えていると、
「もうよい」
箸を置き、小さな声で信長様が呟き、再度私を抱き抱えた。
「おっ、降ろして下さい!」
慌てて顔を上げて信長様を見ると、
「よいのか?その顔皆に見られても」
意地悪な笑みを浮かべて私に囁いた。
「............っ」
悔しいけど、真っ赤にした目を皆に見られたくなくて、言う通りに、私は信長様の胸に縋るように顔を隠した。
「アヤの膳を天主へ運べ。あと、桶に湯を入れ、清潔な布と共に届けよ」
家臣にそう伝えると、信長様は私を抱き抱えたまま広間を後にし、天主へと連れて行った。