第14章 二人の距離 信長編
「機嫌は直ったか」
(早く笑った顔を見せろ)
「っ、どうして、殺さなくてもいい人まで殺すんですか?」
(人を殺めることを責めているのか?)
「殺らなければ、殺やられる。当たり前のことだ」
「でもっ、捕まえて生かす方法も、話し合う事もできるはずです」
「そこまでだ。アヤ」
この手が数多の者の血に染まっていることは分かっている。穢れを知らぬ貴様に容易に触れて良いとも思ってはおらん。たが、ここで貴様が生きていく以上、俺が守らねば、貴様はすぐに死ぬであろう。
「のぶ...なが..さま?」
アヤの細首に手を掛けると、アヤは大きな目を更に見開いて驚いた顔で見つめてきた。
「貴様のこのか細い首など、簡単にへし折れる。顕如は、一度貴様を見ている。そんな奴の手先を生かしておけば、必ず貴様に害が及ぶ。貴様は大人しく、俺に守られていれば良い」
「そんな言い方.......っ」
まだ、反論するのか。貴様だけは・・・・
自分でも消化できないもやもやとした霧のような感情が湧き起こり、気がつくと、アヤの首を絞めていた。
「グッ、ゴホッ、ゲホッ」
アヤのむせて咳き込む音で我に帰る。
「暫く頭を冷やせ」
「信長さ、ゴホッ...っ」
「待って、話を......」
アヤはまだ何かを言いたそうだったが、俺はそれを遮断するかのように、襖をしめた。
手にはまだ、アヤの細首を締めた感覚が残っている。
その感覚を消すようにキツく掌を握り締めた。