第13章 二人の距離 後編
目を見開くと、私の手を掴み口づける信長様の顔があった。
「っ、」
涙がどうしようもなく溢れ出した。
優しく、包み込むように口づけられる。
少しずつ口内に入り込む舌が、まるで私をあやす様にくすぐる。
少しづつ、身体の緊張が解かれた頃、唇が離れた。
「っ、何でこんな事」
「気が変わった。貴様を未来には帰さん」
ニッといたずらっ子のような笑顔を向ける。
「っ、」
「もう、離れることは許さん」
私の両頬に手をあてて涙を口で拭い、口づけが落とされた。
「んっ、......ふ.........はっ....」
涙がまだ止まらない私は息苦しくて、どんどんと信長様の胸を叩く。
「何だ、落ち着かん奴だ」
渋々と唇を離し信長様がぼやく。
(何でもう普通なの?)
何だか無性に腹が立ってきた。
「わっ、私はまだ帰らないなんて、言ってません」
泣きじゃくりながら、心に閉じ込めたはずの気持ちが溢れ出してきた。
「私は、戦なんて嫌いだし、人の命を奪うのは嫌なんです」
「分かっておる」
信長様は、優しい顔で静かに答える。
「平凡に、普通に生きてきたから、強くなんてなれないし」
「俺に守られていればいい」
「信長様を支える自信なんてないし」
「貴様がそばに居れば、それで良い」
「っ、私と信長様の間には、分かり合えない距離があって、私は、一緒にいると苦しいんです」
「貴様は500年という時空を超えて来た。それに比べたら、大した距離ではない」
何を言っても、バカみたいだ。あんなに悩んだのに、苦しかったのに、信長様にぶつけてしまえば、たった一言で解決して行く。