第13章 二人の距離 後編
天守へと続く廊下を歩く。
初めての夜は、とにかく恐怖だった。
それがいつの間にか、二人で当たり前に一緒に歩く廊下へと変わった。
でも今は、二人の心の距離を表すように、長く重苦しく感じる。
襖の前に着いた。
「信長様、アヤです」
声を掛け待つ。
「入れ」
信長様の声が聞こえて来て、襖を開け入って行く。たった一言だけど、胸がトクンと信長様の声に反応する。ドキドキしながらも、信長様を目で探す。
いつも座っている椅子に信長様の姿はない。
褥を敷く方の間に足を向けた途端、
「のっ、!?」
盃を手に、女の人と褥の上で戯れる信長様の姿が見えた。
「っ、」
咄嗟に口元を手で覆って、部屋を出ようとすると、
「アヤ、用事があって来たのだろう。終わるまでそこで待ってろ。命令だ」
冷たい目で、口元に薄っすら笑みを浮かべながら、信長様は私に命令をした。
信じられない光景を目の当たりにして、私はその場に力なくしゃがみ込んだ。
クスクスと、女の人の笑い声が聞こえてくる。
「宜しいのですか?」
「かまわん。貴様の手練手管を奴にも見せてやれ」
横たわる信長様の上に跨る女性。二人とも上半身の着物は乱れている。黒髪の妖艶な美しさを放つ女性は、そのはだけた信長様の胸元に手をつき口づける。
やめて、やめてよ。どうしてこんな事するの!
勝手なのは自分だって分かってる。あの手を拒否したのも、逃げ出したのも私で、信長様が誰と何をしようが私に何かを言えるわけがない。でも、こんな事.....
胸が苦しくて息が出来ない。
目を逸らし、部屋から出ようと、立ち上がろうとした瞬間、
「んっ...」
片手をやんわりと掴まれ、何かが優しく口に触れた。