第13章 二人の距離 後編
「そんな事...信長様は一言も.....」
「あの方は、戦場で散った命の全てを抱えて生きておられる。だから、何の言い訳もされない」
「すごい人だね、信長様って」
「信長様は必ず天下を取られる。その為にも、隣にはお前がいて信長様を支えてくれればと、俺はまだ思ってる」
私の両肩を掴んで真剣な顔で秀吉さんが話す。
「買いかぶりすぎだよ。私は、本当に普通に生きてきて、平凡な人生で、だから、そんな大きな人を支えるなんて無理なんだよ」
今更、どうすればいいのか分からず俯くと、
「そうだな。変なこと言って悪かったな。お前がいなくなると寂しいけど、元気で暮らせよ。明日は近くまで送るから」
いつもの優しい秀吉さんの口調と笑顔で頭を撫でてくれた。
秀吉さんが部屋を出て行った後、
お世話になったこのお城の廊下を最後に磨かせてもらった。
自室の片付けをして、荷物の整理が終わった頃には陽も傾き、安土城全域に火が灯った。
電気のないこの時代、夜になると灯されるこのお城の風景が綺麗で大好きだった。でも、それも今夜で見納め。
あとは、信長様にお別れを言いに行くだけになった。