第13章 二人の距離 後編
広間を出ると、皆んなが次々と声をかけてきてくれた。
「国元に帰るくらいなら、俺の所に来いよ」
相変わらずの顔の近さで政宗が囁く。
「政宗やめておけ。小娘のささやかな頭をそれ以上悩ませてやるな」
言ってる事は失礼だけど、政宗からやんわりと引き離してくれてる光秀さん。
「アヤ様が居なくなるのはとても寂しいですが、お国元に帰ることができるのなら、喜ばしい事ですね」
「ありがとう。三成くん」
「・・・・・・」
家康は何か言いたげだけど、口をつむったまま切なげにこっちを見てる。
「発つのは明日だろ?じゃあまだ明日の朝会えるな」
そう政宗が言うと、みんなもそれぞれの場所へと戻って行った。
部屋に戻ると、秀吉さんが座って待っていた。
「秀吉さん」
「悪い、勝手に中に入らせてもらった」
「うん。大丈夫」
秀吉さんと向かい合わせに座る。
「お前が決めた事をどうこう言うつもりはない。ただ、信長様の事を少しだけ聞いて欲しいんだ」
「うん。私も聞きたい。」
「信長様は、確かに若い頃は散々無茶をされたし、その戦術は非人道的なとこもある。だがそれは、信長様の生い立ちに関係していると俺は思ってる」
「信長様の生い立ち?」
そう言えば、あまり聞いたことないな。
「信長様は、織田家の家督を継ぐまで、実の母上や兄弟にその命を何度も狙われて来たんだ」
「そんな事、そう言えば前に言っていた気がする。でも、どうしてそんな事。実の親兄弟なのに」
「枠にとらわれず、自由に振る舞う信長様を御母上様は疎ましく思われ、他の兄弟に家督を継がせようとしたんだ。信長様を暗殺しようと試みるも、それは失敗に終わり、その時は信長様も実の兄弟ということもあり、許されたんだが、再度暗殺を企て、信長様がご自身の手でその命を奪われた。兄弟を殺した信長様を御母上様は罵り許さなかったと聞く」
「ひどい.....」
「信長様はあの日から、裏切り者には一切の情をかけなくなった。だけどアヤ、お前が来てから、信長様は変わられた。少しづつ、人の心を取り戻しておられると俺は思ってる。此度の戦でも、命乞いを願うものは逃すと信長様は仰られたんだが、それを許さない顕如側の者の手によって、信長様が命令を下したかのように焼き討ちにあったんだ」