第13章 二人の距離 後編
「アヤ」
険しい顔の信長様が入ってきた。
「信長様」
「貴様、どういうつもりだ。なぜ宴に顔をださん」
「そういう訳では、今から行こうと、んっ」
襟を掴まれ、強引に口づけられる。
「っ、待って、信長様、話をっ」
ドサッと畳に投げられるように押さえつけられた。
「貴様は俺のものだ、まだ分からんのか」
せっかく着付けてもらった着物が強引に剥がされそうになる。
「やめっ、私は、信長様のものではありません!」
ピタリと、手が止まる。
「何?」
「信長様の事は好きです。でも、私達は色々と違いすぎていて、もう、一緒にはいられません。私が時空を超えてこの時代に来たように、3日後、元の世界に戻るための空間が現れるそうです。私はそれで、自分の世界に帰ります」
信長様はじっと私を見ていたけど、私の目は涙で滲んでいて、信長様がどんな顔をしていたのかは分からない。
「そうか」
一言だけそう言うと、優しい手つきで私の着物の乱れを直して、部屋を出て行ってしまった。
力が抜けて、畳に崩れ落ちる。
「っ、何で、何でこんな時だけ物分かりがいいの。いつも強引なくせに、無理やりでも、めちゃくちゃにして、あなたの事以外考えられなくして欲しかったのに。離さないって言ったくせに、なんで何も言ってくれないの?」
矛盾してる事は分かってる。でも、どこかで引き止めてくれる事を期待していた自分がいたのに。私達の関係はこんな形であっさりと終わりを迎えてしまった。