第2章 棘
「遅くなりました」
小さな声で囁くように入って行く。
私のお膳は、信長様の横にいつも置かれている為、すでに食事を始めている皆の後ろを通らなければいけない。
「アヤ、足、どうかしたの?」
引きずるようにして歩く私に、
医療の心得のある家康が声をかけてくれた。
「あっうん。廊下の床のササクレが刺さったみたいで」
「まだ、刺さったまま?足見せてみて」
家康がそう言って、私の足に手を伸ばすと、
「家康、触れるでない」
上座から、信長様の鋭い声が投げかけられた。
「………っ」
家康の手がその一言で止まる。
「俺が見る」
上座に座っていた信長様は立ち上がり、私の下まで歩いてくると、ひょいっと私を抱き上げた。
「わっ、信長様、私、自分で歩けますから」
ジタバタするが降ろしてくれそうにない。
「ふんっ、これくらいで恥ずかしがるな」
皆の視線を集め、顔を真っ赤にして恥ずかしがる私をよそに、信長様はそのまま上座へと戻った。
(何なの一体。遅刻した罰?)
自分の膳の前に下され、足を持ち上げられる。
「あっ」
(皆んなが見てるって分かってるのかな、恥ずかしいんですけど)
棘の刺さった箇所を見ながら、眉をひそめた。
「秀吉!」
「はっ」
「廊下の掃除をする女中達の足を今すぐ切り落とせ!」
険しい顔で、信じられない言葉を吐いた。