君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第9章 tempo rubato
多分…いや、確実に、俺の目には花火よりも大野君の方が綺麗に映っていたんだろうな…
唇を重ねては視線を合わせ、お互い照れたように笑い合っては、また唇を重ね…
満開の花が咲く夜空を見上げながら、小さなキスを何度も繰り返した。
勿論、繋いだ手はそのままに…
そうして全ての花火が打ち終わり、俺達は人並みに押されるようにして花火大会の会場を後にした。
どうも人混みが苦手なような大野君を不安にさせないように、なるべく人気のない道を、はぐれてしまわないように彼の手を引いて歩く。
擦れ違う人の目なんて、全く気にならなかった。
でも、
「もしかして、翔…?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれた瞬間、俺の手は無意識に彼の手を離していた。
絶対に離さない、って…そう思ってたのに…
「どうして…ここ、に…?」
喉の奥が乾いて…声が掠れる。
「友達に誘われて…。翔こそどうして?」
「俺はその…」
聞かれて俺は返事に詰まる。
彼女と別れる前…まだ俺達の関係が円満であった頃、花火を一緒に見ようと約束していたからだ。
「まあ、いいわ…。私には関係のない事だもの…。それより…」
彼女の視線が、一瞬大野君に注がれた。
「彼は…その…、友達って言うか…」
「ふーん…、翔にそんなお友達がいるなんて、初めて知ったわ…」
「ああ…、つい最近知り合ってね…」
まさか彼女にフラれた直後に出会った、なんて言えなかった。
ましてや恋人だなんて…
「そう…、その割には手なんか繋いじゃって、随分仲が良いのね?」
「そ、それは…」
見られてたんだ、って…
そう思ったら、続く言葉さえ見つからず、俺は窺うように俺と大野君とを交互に見る彼女の視線から、顔を背けることしか出来なかった。
「まあいいわ、あなたが誰とどうしようと、私には関係のないことですものね? でも、もし寂しくなった連絡して? 話し相手くらいになってあげるから」
そう言って白い歯を見せながら去って行く彼女の背中に、
ふざけるな、って…
馬鹿にすんな、って…
怒鳴りつけてやりたかった。