君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第8章 a cappella
櫻井さんがシャワーを終えるまでの間、ずっと乙女な自分に酔っているわけにもいかず…
普段滅多に開けることのない押し入れを開けた…けど、目的の物はそこには無くて、すぐに閉めた。
どうすっかな…
泊まってけと言ったものの、客用の布団なんてモンはウチにはないし…、だからと言って小さなベッドで二人ってのは、俺はそれでも構わないけど、櫻井さんにとってはきっと窮屈だろうし…
何より、ニノの匂いが染み付いた布団に櫻井さんを…なんて、いくら馬鹿な俺だって出来っ子ない。
俺は仕方なく、ベッドにかかっていたシーツを引き剥がすと、洗濯して仕舞ってあってシーツと取替えた。
仕方ない…よな?
取り替えたシーツを洗濯機に放り込み、キッチンに立った俺は、麦茶用のポットに水を汲み、ティーパックを一つ浮かべた。
ついでに残り少ない米を研ぎ、炊飯器にセットする。
ニノが生きてた頃には、当たり前のようにしていたこと…
なのにニノが死んだあの日から、ずっと出来ずにいたことを、今度は櫻井さんのためにする。
不思議な気分だった。
「シャワー、ありがとう。おかげでサッパリしたよ」
水道の水が流れるのを、ボーッと眺めていたところを、背中から声をかけられ、俺は慌てて振り向いた。
俺のシャツを着て、俺のハーフパンツを履いた櫻井さんが、髪先から滴る雫を乱暴に拭きながら、俺に笑いかける。
ワイシャツやポロシャツでは分からなかった、櫻井さんの胸や腕に付いた筋肉に、不覚にもドキッとしてしまう。
思わず視線を逸らした俺に、
「変…かな…?」
櫻井さんが自嘲気味に問いかけるから、
『そんなことない』
俺は視線を逸らしたまま、首だけを横に振って答えた。
「そっか、なら良かった。普段あまりこういう格好したことないから、ちょっと不安だったんだ」
そう言って小さく笑った櫻井さんが、そっと俺の腰に腕を回した。