君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第8章 a cappella
「はあ…」
溜息…だろうか、櫻井さんが短く息を吐き出した。
怒って…る?
俺は櫻井さんの胸に顔を埋めたまま、上目でそっと櫻井さんの顔を覗き見た。
不安…だったんだ。
櫻井さんともっと一緒にいたい、って思ったのは事実。
でも(もう手遅れかもしんないけど…)我儘を言って困らせて…、その結果、櫻井さんに嫌われたら…って思ったら、やっぱり不安で、怖くて…
いつの間にか、こんなにも櫻井さんのことを好きになっていた自分に、少しだけ驚いた。
「シャワー…、借りても良い? ついでに着替えも貸してくれると有り難いんだけど…」
えっ…、それって…
今度こそ目を見開いて見上げた視線の先で、櫻井さんが「ん?」と首を傾げた。
だから俺は、櫻井さんから離れることなく、左手だけを伸ばしてペンを握ると、
『パンツ、新しいの無いけど良い?』
不器用な手つきでメモ帳にペンを走らせた。
「あ、ああ…、うん、そう…だよね…」
『俺ので良ければ貸すけど?』
俺自身は、使い古した下着とか、貸すのも借りるのも、けっこう気にする方なんだけど、櫻井さんは別。
「そうだね…、流石に下着無しで…ってのも落ち着かないから、貸してくれる?」
『ちょっと待ってて? 用意するから』
俺の背中から、櫻井さんの腕が離れて行く。
本当はもう少しこうしていて欲しい。
でも仕方ない…
俺は僅かに痺れを感じ始めた足で立ち上がると、プラスチックケースの中から、比較的新しい下着と、寝巻き替わりになりそうなシャツとハーフパンツを取り出し、それを櫻井さんに手渡した。
『タオルは風呂場にあるから、適当に使って?』
櫻井さんが腰を上げ、「ありがとう」という言葉と、爽やかな笑顔を残し、部屋を出て行く。
その瞬間、力が抜けたのか…、それとも気が抜けたのか…俺はその場にペタンと崩れるように座り、熱くなり始めた顔を両手で覆った。
これじゃまるで、恋する乙女みたいじゃんかよ…