君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第8章 a cappella
俺達の間に流れる沈黙の時間…
聞こえるのは、徐々に近付いてくる雷鳴と、窓に打ち付ける激しい雨音、それだけ…。
「あの…さ…」
先に沈黙を破ったのは、櫻井さんの方だった。
「聞いてもいい…かな…?」
テーブルの上で、ペンを握る俺の手を、櫻井さんの手が包んだ。
「どうして彼は…? 事故? それとも病気だったとか…?」
絞り出すような声に、俺は首を横に振って答える。
そうじゃない、って…
「じゃあ…、どうして…?」
その問いかけに、俺は櫻井さんの手の中からそっと自分の手を引き抜き、メモ帳にペン先を押し当てた。
でも何故だか、ペン先をその先に進めることが出来なくて…
「大野君?」
名前を呼ばれた瞬間、メモ帳の上にポタポタと熱い雫が落ちた。
あれ…、俺…、何で泣いてんだろ…
ニノが死んだ時…いや、ニノが腕の中で冷たくなって行く時でさえ泣けなかったのに、どうして…
「ごめん…、言い辛いことを聞いてしまって…」
違う…、そうじゃない…
「話したくなかったら言わなくて良いから…」
急に俺が泣いたりしたから驚いたんだろうね…
戸惑いがちに伸ばされた手が、俺の頬を包んだ。
そしてもう片方の腕が俺の肩を抱き寄せると、その厚い胸の中に俺をスッポリと包み込み、
「泣きたいだけ泣いたら良いよ…」
それまで聞いたこともないような優しい声で言われた瞬間、俺の涙は堰を切ったように溢れ出した。
そっか…、泣けなかったんじゃない、俺は泣かなかったんだ。
泣かない代わりに、俺は声を失くしたんだ。
「大切な人だったんだね、彼は君にとって…」
そう…、ニノは俺が初めて本音を打ち明けられた相手。
そして同じ悩みを共有出来た、唯一の存在。
ニノがいなければ、俺は今頃自分の生まれ持った性質に、もっと苦しんでいたと思う。
ニノがいたから…、ニノがいなかったら俺は…
そんな簡単なことにも気付けずにいたなんて、俺はなんて馬鹿なんだろう…