君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第1章 misterioso
「ねぇ、ところで今何時? 俺、時計とか持ってないから、分かんなくて…」
ズッシリと重いリュックに、彼の手によって購入時みたく綺麗に畳まれた傘を仕舞い、俺は腕時計に視線を落とした。
「えっと…、丁度11時を過ぎたところかな…」
「え、嘘、マジで…」
突然、キャップを被った頭を両手で抱え、彼がしゃがみ込む。
「バス、もう終わってるよ…ね?」
「そう…だね、この時間だから、多分…」
「うわぁ…、マジか…」
何か急ぎの用事でもあったんだろうか…
それとも恋人が部屋で待っている…とか…?
恋人はいる…みたいなこと言ってたし…
彼はしきりに首を捻っては、深い溜息を漏らした。
そうなると放っておけなくなるのが、俺の性分で…
「あの…さ、もし良かったら一緒に乗ってく?」
俺はロータリーでハザードランプを点滅させ並ぶ、タクシーの列を指さした。
「マジで? いいの?」
物騒な世の中だ、いくら男とはいえ、こんな時間の一人歩きは危険だ。
それに…、一見すれば女性に見えなくもないし…
「あ、でも、方向が同じなら…だけど…」
「めっちゃ助かる〜」
って、人の話聞いてる?
目を輝かせ、勢い良く立ち上がった彼は、俺の腕に自分の腕を絡めると、俺を引っ張るように、早足かつ大股で歩き始めた。
「ね、早く早く!」
「えっ、ちょ、ちょっと…」
…って、やっぱ人の話聞いてないし…
俺を引き摺るようにしてロータリーに向かった彼は、先頭で待つタクシーのドアを叩くと、我先にと車内に乗り込んだ。
「お兄さんも、早く乗って?」
「あ、ああ…うん…」
仕方ない…、同乗しないかと言ったのは俺だし、彼を一人放っておけないと思ったのも事実。
俺は一つ息を吐き出すと、タクシーに乗り込んだ。