君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第1章 misterioso
目の前で爆笑する彼に、大人気ないと思いつつも、つい苛立ちを感じてしまう。
「な、何がそんなにおかしい! 俺はただ君みたいな子が、こんな雨の中、こんな遅い時間にだな…」
「だーから、それがおかしいの! 俺、お兄さんが心配するような年じゃないし。それに…」
彼の、男の割には綺麗で、雨に濡れているにも関わらず暖かな手が、俺の手から傘を奪って行く。
俺はその光景を、まるでスローモーションでも見てるかのように、目で追った。
目が…離せなかった。
「もう雨降ってないし」
「えっ…?」
言われて見上げた空は、星こそ見えないが、ついさっきまでとは違い、雨雲一つない夜空で…
「本と…だ…」
「ね?」
「あ、うん…」
窄めた傘を彼から受け取り、ハンカチで軽く水気を取ってから、丁寧に畳もう…と思うんだけど、実は俺はこういった作業が大の苦手で…
「あれ…、おかしいな…」
どうしても綺麗に畳むことが出来ない。
適当でいいか…、どうせ干すんだし…
傘との格闘を断念しかけた時、
「貸して?」
彼の綺麗な手が、俺の手から再び傘を奪って行った。
「俺ね、こういうのけっこう得意なんだ」
その言葉の通り、彼は俺が悪戦苦闘の末あえなく敗北を喫した傘を、買った時のように綺麗に畳むと、満足気な笑顔と一緒に俺に差し出した。
「あ、ありが…とう…」
「いいえ、どういたしまして。っていうか、お兄さん不器用過ぎだし(笑)」
悪かったな、不器用で…
クスクス笑いだした彼に、恨み言の一つでも言ってやりたいところだが、ここで言い訳をしたって薮蛇になるのが目に見えている。
俺が、“超”が付く程不器用だ…ってことは、紛れもない事実なんだから。