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君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第7章 adagio


俺は大野君が差し出したスマホを受け取ると、そこに打ち込まれた文章を、声に出して読み上げた。

「”櫻井さんて、案外どんくさいんだね”って…、いや今のはさ、そのさ、何て言うかさ…」

まさか大野君に見惚れてた、なんて言えないし…、返事に困った俺はしどろもどろになりながら、ただただ苦笑いを浮かべるしかなくて…

「そ、そう言えば…、アドレス交換したいんだけど…、良いかな?」

俺は無理矢理話を擦り替えた。

大野君は一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに笑顔に変えて小さく頷き、俺の手からスマホを取り上げ、何かを打ち込み始めた。

『俺、そういうの苦手だから櫻井さんがやって』

「あ、ああ、うん。じゃあ、ちょっと貸してくれる?」

大野君からスマホを受け取り、取り出した自分のスマホと二つ並べてお互いのアドレスを入力していく。

仕事上PCを扱うことも多いから、こういうことは得意だ。

「これでよし、と。ごめんね、俺、昨日ちゃんと教えとけばよかったんだけど、気付かなくて…」

スマホをポケットに仕舞い、再び自転車のハンドルを握った大野君に言うと、彼は静かに首を横に振って、再び歩を進め始めた。

時間も深夜を過ぎていることもあってか、擦れ違う人もいなければ、行き過ぎる車もない…、街灯の薄暗い灯りだけを頼りに大野君と並んで歩く。

普段喧騒の中にいることの多い俺にとっては、静か過ぎる程静かで…

何か話さないと、とも思うけど、こういう時に限って何から話したら良いのか分からない。

聞きたいことも、話したいことも、俺の胸の中には溢れ返ってるっていうのに…

もうすぐそこに大野君のアパートが見えているっていうのに…

情けないな…

自分の不甲斐なさに一つ息を吐き出し、丁度足元に転がっていた小石を蹴飛ばした所で、不意に大野君が足を止めた。

そして俺の腕を指でツンと突くと、目の前にある建物を指差した。

「ここ、俺ん家…」

街灯の下で、大野君の唇が静かに動いた。
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