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君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第6章 amabile


すっかり俯いてしまった俺の頭を、雅紀さんの大きな手が、いつものようにポンと叩いた。

でも俺は顔を上げられなくて…

「櫻井さん、コイツ今日はもうバイト上がりなんで、アパートまで送ってって貰えません? 外、雨なんで
…」

それには流石に驚きを隠すことが出来なくて、咄嗟に顔を上げた俺に、雅紀さんの笑顔が向けられる。

でもただ優しいだけの笑顔じゃない、その目はいつになく真剣で…

俺はただただ激しく動揺したまま、首を横に振り続けた。

だってそんなことしたら俺、自分の気持ち抑えらんなくなる。

これ以上ニノを裏切りたくないのに…

なのに俺の気持ちなんか全然知らない雅紀さんは、

「俺ね、つい最近義理ではあるんだけど、事故で弟を亡くしたばっかでさ…。だから、コイツのこと放っておけなくて…」

更に強引に櫻井さんに詰め寄った。

つか、ニノの死を事故だったって…、俺にはそんな風には思えないんだけど…

雅紀さんにとって、ニノってそれだけの存在だったのかと思うと、悲しくなってくる。

「無理にとは言わないんだけどさ…、ダメかな?」

雅紀さんの再度の問いかけに、俺は横目で櫻井さんをチラリと見た。

きっと困ってる、って…そう思ってた。

でも、

「いえ、俺も大野君のこと放っておけないし…」

パッと顔を上げた櫻井さんは、少し照れたような…そんな顔で俺の手を握った。

「勿論、俺で良ければ…だけど、どうかな?」

そんな優しく笑われたら、駄目…なんて言えるわけないじゃん…

俺は櫻井さんの顔を見ることなく首を横に振ると、ずっと右手に握り締めたままだったボールペンを、メモ帳の上に走らせた。

『お願いします』と…

「よし、決まりだな。そうと決まれは、タイムカード押して、さっさと着替えておいで?」

雅紀さんに言われて一旦は頷くけど、俺の手はしっかり櫻井さんの手の中にあって…

俺はボールペンとメモ帳をポケットに仕舞うと、空いた手で櫻井さんの手を軽くつついた。
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