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君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第6章 amabile


「俺、店閉めてくるよ」

閉店時間が迫っていたこともあって、雅紀さんが席を立って店の外へと出て行く。

俺も後を追いかけようと思ったけど、櫻井さんの手がずっと俺の手を握っていて…

「座ったら?」

潤さんに言われて、俺は櫻井さんの隣に腰を下ろした。

まだ片付け終わってないのに…

頭の片隅に、シンクに溜まった食器の山が浮かぶけど、それも櫻井さんと目が合う度に、消えてはまた浮かぶ。

ヤバい…、昨日も会ったっていうのに、俺めっちゃ緊張してる…

まるで繋いだ手から、鼓動が聞こえてしまうんじゃないかってくらいに、緊張してる。

そんな俺の心境を知ってか知らずか、

「俺の聞き間違いじゃなかったら、さっき“一目惚れ”とか言ってたよね? ってことはさ、櫻井さん“も”智のこと好きってことだよね?」

看板と暖簾を仕舞い終えた雅紀さんの、無駄に明るい口調と、やたら能天気な声が無人の店内に響いた。

つか、“も”って強調してんじゃねぇよ、ったく…

「え、“も”ってことは…、えっ…、智“も”って…そういうことなの、智?」

俺達の向かいに座った二人の視線が、俺と櫻井さん、交互に注がれる。

だから…、“も”って強調してんじゃねぇよ…

「良かったじゃん、智」

潤さんの声が心なしか弾んでいるような気がするのは、俺の気のせいなんかじゃない。

でも俺はまだ…

「あ、あの…、違うんだ、そうじゃなくて…、俺が一方的に大野君のことを好きになっただけで、その…大野君には一緒に暮らしている恋人がいるって聞いてるし、だ…だから俺の片思いっつーか…」

いつになく早口で、なのに時折言葉を詰まらせながら言う櫻井さんの横顔を見ていると、何だか急に胸が締め付けられるように苦しくなる。

だって仕方ないじゃん…、櫻井さんはニノが死んだことなんて知らないだろうから…

でも、それでも…

「迷惑だったよね、ごめんね?」

静かに離れて行ってしまった手が寂しくて…

違うんだ、って…
そうじゃないんだ、って…

櫻井さんに“好き”って言って貰えて、本当は嬉しかったんだ、って…

伝えたいのに、その術を持たない俺は、ただ首を横に振ることしか出来ずにいた。
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