君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第6章 amabile
厨房を含め、バイトスタッフ達が次々上がって行く中、俺の手元に一枚の伝票が届けられた。
追加の生ビールと、帆立貝柱の刺身か…、出来ないオーダーじゃないな…
俺は手際良く帆立貝柱を捌くと、専用の皿に盛り付け、サーバーにセットしてあったジョッキを手に取った…までは良かったけど、翌々考えたら、バイト君達が皆上がってしまったこの状況で、誰がコレを運んで行くんだろうと、疑問が頭を過ぎった。
仕方ない…、別に厨房から出ちゃいけないとは言われてないし、この場合俺が運んでくしかないよな…
フッと息を吐き出した俺は、皿とジョッキを手に持ったまま、暖簾を潜ってカウンターへと出た。
運が良いのか悪いのか…、一つのテーブルを除いて客はいない。
マジかよ…、なんでよりにもよって…
俺は、すぐさま厨房に引き返したい気持ちを抑え、カウンターを出て小上がり席へと向かった。
ニノから雅紀さんを奪って行った男…、出来れば永遠に顔を見たくない相手がそこにいると思うだけで、ぼんの数メートルと大した距離でもないのに、酷く遠くにあるような気がして、足取りは重いし、気だって重くなってくる。
口が利けたら、思い切り罵って、恨み言の一つでも言ってやりたいところだけど、幸か不幸か…今の俺にはそれすら叶わない。
俺は徐々に顔が強ばって行くのを感じながら、楽しげに談笑するテーブルに皿と、そしてジョッキをドンと音を立てて置いた。
あえて雅紀さんとも、そして潤さんとも視線を合わせずに…
だって二人の楽しそうな顔なんか見たら俺…、泣いちゃいそうだから…
それでも二人が同時に顔を上げたのは、しっかり視界の端にも入ってたから、俺は早々にその場を離れようとした…のに、ジョッキを握った手を何かに掴まれ、そこから動けなくなってしまった。
っていうか、この手…
ううん…、そんな筈ない…、だってそんなことって…