君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第6章 amabile
土曜の夜ということもあってか、その日はけっこうな忙しさで…
俺以外にも厨房スタッフはいるものの、コミュニケーションもろくに取れない上に、不慣れな俺は常にてんてこ舞い状態。
おまけに良く分からないオーダーが入ると、他のスタッフに聞くことも出来ない俺の頭はパニック寸前で…
見兼ねたんだろうな…雅紀さんがヘルプに入ってくれた。
「焦んなくていいから」って、俺の手から鍋を奪って行く雅紀さんは、ちょっと…いや、かなり天然だけどやっぱり優しいし頼りになる。
ニノが好きになるのも無理ないか…
雅紀さんの横顔を見ながらぼんやり考えていると、例のバイト君が、暖簾の隙間から顔だけを出し、
「店長、潤さんいらしてますよ」
雅紀さんにだけ聞こえるように言った。
つか、俺にも聞こえてるけど…
「うーん、今ちょっと無理だから、ちょっと待ってて貰って?」
視線は手元の鍋に向けたまま言った雅紀さんの顔は、どこか嬉しそうにも見える。
俺にしてみりゃ、出来れば顔も見たくない相手だけど、雅紀さんはそうじゃない。
急に手際の早くなった雅紀さんを横目に、俺は一つ溜息を漏らした。
そうしてある程度のオーダーを済ませ、店も落ち着いて来た頃、洗い物と格闘する俺の肩を叩いた。
「俺、ちょっと行って来てもいいかな?」
満面の笑みで言われて、俺にNOと言えるだけの理由はない。
俺は手だけの仕草で答えると、再びシンクの中で泳ぐ大量の食器と格闘を始めた。
仕方ないか…、ニノが死んでから雅紀さん、ずっと連絡も取ってないって言ってたし…、恋人なら当然会いたいよな…
俺が櫻井さんにもう一度会いたいと思っている以上に…
心なしか、スキップ気味の足取りで厨房を出て行く雅紀さんの後ろ姿に、俺は思わずプッと吹き出してしまった。
その数分後に、俺が同じようにスキップしてるなんて、全く思わずにね(笑)