君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第5章 andante
「そう言えばさ、あの子どうなったの? 探してたんでしょ、会えたの?」
ジョッキの半分程のビールを飲み干した松本が、ジョッキを握ったまま、テーブルに身を乗り出した。
「ああ、そのことか…」
俺はジョッキをコースター代わりにしたおしぼりの上に置き、組んだ両腕ををテーブルに乗せた。
「昨日…さ、ほんと偶然だったんだけど…」
言いかけた時だった、
「ごめんねー、お待たせ」
アルバイト店員の彼以上に爽やかな、年は俺達と変わらないくらいだろうか…男性が、バンダナ代わりに頭に巻き付けたタオルを取りながら、俺達のテーブルに向かって手を振り、大股で歩み寄って来た。
「って言うかさ、何で連絡くれなかったの? 俺、ずっと待ってたんだからね?」
男性は座敷に上がるなり、爽やかな笑顔を膨れっ面に変えて、松本の脇腹を肘で小突いた。
そしてそれに応えるように松本も、
「だって仕方ないじゃん、雅紀それどころじゃなかっただろうし、それに…」
ピタリと寄り添って来る男性の腰に腕を回した。
ひょっとして、この人が松本の恋人…なのか?
つか、俺絶対忘れられてる…よな?
「あ、あの…」
思い切って声をかけてみるけど、
「それに、って…、もしかして和也のこと? そのことなら気にしないでって言ったでしょ?」
「気にするなって言われたって、気になるよ…。だって俺のせいで…」
俺の声なんて全く耳に入ってない様子で…
しかも超込み入った話みたいだし、話の腰を折るのは申し訳なさも感じるが、このまま放置プレーを受けるのも、俺としては居心地が良くない。
痺れを切らした俺は、ジョッキに残っていたビールを全て飲み干し、
「あ、あ、あのっ! お取り込み中申し訳ないが松本、俺の事忘れてる…よな?」
二人の間に割って入った。
当然、俺の目の前で二人が同時に肩をビクンと跳ねさせ、松本は申し訳なさそうな顔をこちらに向けた。
「ご、ごめん…、つい…」
いや、久しぶりに会うって言ってたし、別に良いけどさ…