君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第5章 andante
「いらっしゃいませ」
涼しいを通り越して、寒いくらいにエアコンの効いた店内に入った俺達を、威勢のいい声が出迎えてくれる。
狭くもなく、かと言って広過ぎない店内には、カウンター席と小上がりになった座敷テーブルがいくつか並んでいて、思った通り感じの良い店だ。
「あれ、潤さんじゃないですか」
おしぼり片手に、爽やかな笑顔を振りまきながら歩み寄って来たのは、恐らくアルバイト店員だろう。
潤は片手だけを上げて軽く挨拶を交わすと、視線をカウンターの向こう側に向け「いる?」と、アルバイト店員に尋ねた。
「ああ、店長ですね? ・・・今ちょっとオーダーが立て込んでて、手が離せないみたいで…」
「そっか…。じゃあ、俺が来てることだけ伝えてくれる? あ、それから、エアコンの温度、ちょっと上げるか弱めるかしてくれる?」
俺でも寒いと感じるんだ、寒がりの松本なら尚更だろうな。
「座敷で良い? それともカウンターにする?」
言われて店内を見回すと、丁度俺達が座れるだけの席があるカウンターに比べ、座敷は初老の男性が一人座ってるだけで…
「いや、座敷で構わないよ」
落ち着いて話をするならと、俺は迷わず座敷を選んだ。
テーブルを挟んで松本と向い合せに座る。
するとタイミングを見計らったかのように運ばれて来る、溢れんばかりにビールで満たされたジョッキが二つと、小鉢が二つ。
「あ、店長に潤さんが来てるって伝えたら、超嬉しそうな顔で”すぐ行くから、ちょっと待ってて”って言ってましたよ」
やっぱり爽やかな笑顔で言われたままを松本に伝えるバイト店員。
つか、バイトも公認の関係…なのか?
「とりあえず乾杯しようか?」
「そうだな」
俺達はお互いにジョッキを持ち上げ、軽くぶつけ合ってから、ほぼ同時にジョッキを傾けた。
キンキンに冷えた生ビールの、決して強すぎない刺激と、仄かな苦みが、喉元を過ぎる度に全身に染み渡る。
「ぷはぁ~、うまっ…」
ロックで飲む焼酎も良いが、やっぱり夏は生ビールに限るな。