君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】
第5章 andante
俺の問いかけに、静かに首を横に振った松本。
その様子から、ケンカとかそんな簡単な理由じゃないことは、すぐに分かったが、ダシに使われる以上、それなりに事情は把握しておきたいのが俺の性分だ。
「ケンカじゃないなら何だ?」
「うん…、ちょっと身内にトラブルって言うか…、とにかく気不味くてさ…」
余程の事情があるんだろうか…、それきり口を閉ざしてしまった松本の肩に腕を回した俺は、
「分かった。付き合ってやるから、行こうぜ?」
松本を引き摺るようにしてショッピングモールを出た。
「なんか…ごめんね? 俺の問題なのに、付き合って貰っちゃって…」
彼氏だか彼女だか知らないが、松本の恋人が経営する店までの道すがら、松本が派手な見た目に反して、神妙な顔でポツリ言う。
「気にすんなって。それに俺もお前には世話になったしな?」
そうだ、一世一代の勇気を振り絞ってプロポーズした結果、長年付き合った彼女に振られて以降、松本には散々相談にも乗って貰ったし、恩と言っては大袈裟かもしれないけど、当然といえば当然のことだ。
「ここだよ」
言われて足を止めたのは、待ち合わせた駅からさほど離れていない商店街の入口にあって、俺も何度か前を通ったことのある店だった。
「何だ…、ここか…」
「え、もしかして来たことあるとか?」
「いや、前を通ったことはあるけど、入ったことは…ないかな」
外観しか見てはいないが、小ざっぱりとしていて雰囲気も良さそうな店だから、いつか…とは思っていたけど、まさか松本の恋人の店だったとは…
偶然とはいえ、何がどこでどう繋がっているか分からない物だ。
「入ろっか…」
「え、ああ、そうだな」
勝手知ったる風で暖簾を潜る松本に続いて、俺も暖簾を潜った。
この風に靡く暖簾を潜った先に、もう一つの偶然が俺を待ち受けてるなんて、露とも知らずに…