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君の声が聞きたくて 〜Your voice〜【気象系BL】

第5章 andante


松本との約束の時間は18時。

予定よりも一時間早く自宅を出た俺は、待ち合わせた駅近くのカフェに入り、見晴らしの良さそうな窓際の席に座った。

甘めのアイスカフェラテを飲みながら、横断歩道を渡った先に見えるコンビニを見つめる。

もしかしたら、大野君にまた会えるかもしれない…

そう思って俺が指定した待ち合わせ場所だ。

ただそれも、俺に運があれば…の話で、どうやら俺にはその“運”ってやつがないらしい。

立て続けに二杯も飲んだカフェラテに、若干の胸焼けを感じる頃になっても、大野君が姿を表すことはなかった。

だいたい、昨日の今日で、自分に都合の良いことばかり起こるわけがない。

諦めて伝票を手に取ったところで、タイミング良くポケットの中でスマホが震えた。

松本が待ち合わせ場所に着いた旨を知らせるメールだった。

俺は急いで会計を済ませると、夕方を過ぎてもまだ茹だるような暑さの中、額に浮かぶ汗もそのままに、俺は待ち合わせた場所へと向かった。

途中、もし松本がドラッククイーン然とした出で立ちだったら、最悪Uターンをしようかとも考えたが、ショッピングモールの入口を潜った先に立っていた松本は、普段のスーツ姿とは違って、少々派手目ではあるが、極々普通の格好で…

「悪い、待たせたか?」

俺が声をかけると、サングラスで表情こそ分からないが、唇の端を軽く持ち上げて笑った。

「で、今日はどこへ?」

時間と待ち合わせ場所は俺が決めたが、店のセレクトに関しては、松本の顔の広さを考えて、松本に任せた。

「それなんだけどさ…」

そう言って、松本は漸くサングラスを外し、胸のポケットに引っ掛けた。

「俺の彼氏…っつーか、彼女っつーか…、すぐ近くで店やっててさ…。でもこの所ちょっと色々あって、全然会えてなくてさ…」

「なんだ、ケンカでもしたのか?」

珍しく歯切れの悪い物言いに、すぐにピンと来た俺は、今にも泣き出しそうな顔を覗き込んだ。
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